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とほ宿めぐり

旅人の宿 「かがやきの花」

旅が好き。人との出逢いが好き

旅人の宿 「かがやきの花」

谷森宏伸(タニさん)さん 広島県出身。小学生時代は鉄道好き。中学生時代からはバイクに憧れる。
電機メーカーに就職し、技術職・営業職で19年間務めた後、宿の経営を目標に定めて退職。
地元の障がい者・高齢者施設に勤務しながら開宿の計画を進め、ユースホステルのヘルパー経験を経て、2016年に開宿。
宿名の由来は、一度限りの人生、いつかきっと、かがやいた花を咲かせてほしいとの願いから。

宿は注文建築。こだわりは談話室で、宿泊者と一緒に楽しめる宿を目指した。
坂と猫の街、尾道(おのみち)へは最寄り駅から電車で9分。
尾道は街歩きが楽しく、しまなみ海道のサイクリングの拠点でもあるため瀬戸内海の島めぐりもできる。
また、スタジオジブリの映画「崖の上のポニョ」のモデルになった町として有名な鞆の浦(とものうら)へは宿から車で約30分の距離。
宿では近隣の観光情報が得られるため、ノープランで訪れても安心。

ドキドキの一人旅デビュー

上司の快諾であこがれの北海道へ

 

―宿を始める前は、どんな仕事をしていたんですか?

 

タニさん

工業高校を卒業して、すぐ電機メーカーに就職したんですよ。19歳で社会人になり、品質管理部門や修理部門に所属されて。

 

―仕事は大変でしたか?

 

タニさん

当時は何も考えず、ひたすら仕事をこなしていましたが、携帯電話が普及した頃から当番制で携帯を持つようになり、日中は普通に仕事をして、夜は家に帰った後も電話が鳴り、現場へ向かったことも。それほど多くはないんですけど、落ち着かないし何となく面白くないんですね。給料はしっかりともらえるのは有難いのですが。

 

―大変でしたね。

 

タニさん

その頃は旅とか全く興味がなくって。旅デビューは27歳くらい。

 

―もっと若い頃からバンバン旅に出ていたのかと思ってました。何故旅をするようになったんですか?

 

タニさん

仕事やプライベートで何となく少し悩んでいた頃、これからの自分の人生を真剣に考えるようになったんですよね。そんな時に中学生の頃にバイクが好きだったことを思い出したんですよ。社会人になってからは興味なかったんですけど、その時にバイク雑誌見ていて、バイクで一人旅してユースホステルに泊まったり、キャンプして楽しかった記事をいっぱい読んだんですよ。

 

―そこから旅デビューが始まったんですね。

 

タニさん

バイクで一人旅っていいなと思ったんですけど、なんか不安なんですよ。一人旅ってしたことないし。でも行きたいという気持ちが先になって、バイクの免許取って、初めて旅に出たんです。当時はネットなんてないですからね。固定電話で前もって宿を全部予約して。1日目はここ、2日目はここ、って。当時はユースホステルも知らなくて、安そうな民宿を調べて。

 

―旅デビューはどこへ行きましたか?

 

タニさん

山陰だったんです。当時は京都に住んでいて、北海道なんか行けるわけないし、九州もちょっと遠いし、自信がなかったし。中国地方だったら馴染みがあるので少しは気楽に旅できるかなぁと思って。泊まったところは普通の民宿だったけど、年配の方だったかなぁ、一人旅している方と出逢って、いろいろ話して楽しかったんですよ。その時は3泊4日くらいだったかな。

 

―いい旅デビューでしたね。その後も旅に出ましたか?

 

タニさん

また行きたいなぁと思って、次は四国に行ったんですよ。その次は九州行ったりして、だんだん遠いところに。でも、バイク雑誌とか旅雑誌見ていると、北海道の話題が多いんですよ。いつの間にか自分も北海道へも行きたいなぁ~と思うようになったんですよ。でも、北海道なんて休み取れないじゃないですか。飛行機で行けば楽だけど、やっぱり自分のバイクで行きたいというのがあって。バイクで行ったら1ヶ月とか休み取らないと無理だし、会社やめるしかないですよね。

 

―北海道は遠いですからね。

 

タニさん

そんな夢を抱いていた頃、勤続10年の特別休暇をもらえたんですよ。7日間でしたが、京都から北海道までフェリーで30時間かかるし、1週間じゃ楽しめないですよね。

 

―北海道は諦めたんですか?

 

タニさん

悩んだ末、いつもの仕事帰りに大阪駅で一緒にお酒を飲んでた会社の上司に、
「特別休暇、バイクで北海道に行かせてください! 北海道を自分のバイクで一周するのは人生で最初で最後だと思うんで・・・1週間じゃ無理です。夏休みとくっつけて行かせてください!」
お酒飲みながらダメもとで言ったら、「行ってこーい!」で、16日間の休みをもらって。

 

―いい上司ですね!

 

タニさん

普通の上司だったら無理だったかもしれないですね。上司とはいつも週3日くらい飲みに行ってたかな。社内では上司と部下の関係なんですけど、仕事が終わるといつも大阪駅で軽く1時間ほど飲んで、冗談を言いながら仕事を忘れ楽しんでたんですよ。そんな飲み仲間でしたね。本当にラッキーだったと思います。

 

―初めての北海道、どうでしたか?

 

タニさん

長距離フェリーにも乗ったことないし、当時ナビなんかないですから、事前にツーリングマップルとか見て計画を立てたんですよ。基本はキャンプで雨になったら宿に泊まろうかという感じでしたね。北海道に着いたら運よく晴れの日が多かったので、ずっとキャンプをしながら移動してたんですよ。

 

―2、30年くらい前の北海道って、キャンプしながらバイクで旅する人、多かったですよね。

 

タニさん

キャンプ場では、寂しいから僕から必ず誰かに声をかけるんですよ。
「どちらから来たんですか?」「一緒に飲みませんか?」
毎晩、誰かと必ず一緒にお酒を飲んで楽しんいましたね。その時に初めて、とほ宿を知ることになったんです。あるとほ宿の話題になって、「あそこ料理が沢山出て美味しかったよ」とか「すごく話が盛り上がって楽しかったよ」なんて。
道中、いろいろな宿の噂を聞き、誘われましたが、僕にとって北海道のバイク旅は最初で最後になると思っていたので、予定通り旅の計画を貫きましたね。

 

―その後は予定通りの旅ができましたか?

 

タニさん

北海道1周する目標が、毎日楽しすぎてだんだん予定が押してくるんですよ。でも、帰りのフェリーは予約していたから、帰らなければいけない日は決まってるじゃないですか。最後に函館に行く予定でしたが、苫小牧付近で、「これは函館まで行ってたら帰りのフェリーに乗れない」と思って、函館は断念して北上して余市の方に行ったんですよ。フェリーは小樽から出るので、小樽まで行かなきゃいけない感じで。

 

―北海道では、とほ宿に泊まりましたか?

 

タニさん

とほ宿に初めて泊まったのが「さろまにあん」だったんですよ。夕方にサロマ湖付近を走っていたら大雨に遭ったんですよ。仕方なく木陰で雨宿りをしてたのが、たまたま「さろまにあん」の目の前だったんですね。正面に家があると思ってたら、男の人(宿主さん)が「おいでおいで」って手招きするんですよ。最初は意味が分からなかったので近くへ行くと、
「泊まるか?」
「泊まれるんですか?」
ふと見たら「さろまにあん」っていう宿の名前に気づいて。で、そこに泊まって。泊まっている人はみんな仲がいいというかね、和気あいあいとやっていてね。
「みんな友達関係ですか?」
「初めて来ました」
そんな人ばっかりで。その晩も楽しかったです。「こういう宿があるんだなぁ」って。

 

―とほ宿デビューもいい感じで良かったですね。第一印象って大事ですからね。他にも泊まりましたか?

 

タニさん

道中また紹介してもらったところの、ぽんぽん船(現在廃業)っていう宿が小樽にあって、「そこがいいよー」って言われて。どうせ小樽からフェリーに乗って帰るから、函館行けなかった分ちょっと時間に余裕があって。で、ぽんぽん船に2泊して。すごく熱量が高い宿で楽しかったですね。小樽港でのフェリーの見送りにも感動しました。

 

 

ずっとやりたいと思っていた宿

発想の転換で、この地に決める

 

―北海道ツーリングから帰ってきた後は、会社で順調に働いてたんですか?

 

タニさん

好きで入った会社だったんですが、時代とともに仕事内容も変化していって、営業の仕事が増えたり転勤が多かったこともあって、もっと根を張って故郷へ帰って仕事をしたいと感じたんですよね。一人旅でいろんな経験をしてきて、宿やりたいなと思ったんですよ。

 

―宿を始めたい気持ちが会社の仕事よりも上回っちゃったんですね。

 

タニさん

縁があり、広島県の「自然の森MGユースホステル」でヘルパーをやるようになり、平日は京都で仕事をして週末は月に2度ほどユースへ通う生活になりました。
そろそろ京都での仕事を辞めて地元で再就職を考えていた頃、障がい者・高齢者施設の理事長と出逢って、
「今、仕事を探してるんですけど、介護なんてやったことないけど、しゃべることは好きです」
そんな話をしていたら、
「いいから来い」
「資格ないんですよ」
「いいから、いいから」
宿を始める目途が付いたら辞めるということで、やってみることにしたんですよ。

 

―未経験なのに即決してスゴイですね! その理事長さんもスゴイ!

 

タニさん

いつの間にか、介護士になってしまいましたが、ユースホステルのヘルパーも続けたんですよ。結局10年くらいヘルパーをやってました。そこのユースの初代ペアレントさんから「旅は人をつくる」という言葉をいただいて。98歳くらいまでお元気だったかなぁ。僕の師匠なんです。

 

―ここの受付に置かれている色紙のことですね。

 

タニさん

初代ペアレントさんは森岡まさ子さんという方で、旅を通じていろんなことを学ぶという意味で「旅は人をつくる」っていう言葉だと僕は思っています。僕自身がいろんな想いがあって旅を始めた訳なんですけども、旅をするっていうことは、特に一人旅をするっていうことは、自分で物事を決めなきゃいけないと思うんですよ。道に迷ったり分からないことがあったら、先ずは誰かに訊かなきゃ前に進めないと思い、積極的に声をかけましたよ。いろんな人に教えてもらったり親切にしてもらったり。一人旅をしてすごく勉強になった気がしますね。

 

―宿の場所は、どんな感じで決めましたか?

 

タニさん

「自然もあり、交通のアクセスが良くて便利な場所」で福山市を選んだんですよ。
実際に駅や高速道路からも近いですし、バイク置き場や駐車場も確保できましたので良かったです。

 

尾道は坂が多く、街をパトロール中の猫ちゃんも多く見られる。5分以上待っても、こっちを見てくれない。一見さんお断りだよ状態。

 

―ここは住所としては福山市ですが、どんなメリットがありますか?

 

タニさん

福山市はあまり知名度がありませんが、広島県では2番目に大きな市で自然も歴史もあり面白いと思います。
まだ、あまり知られていませんので、新しい発見もあるかもしれませんね。

 

―建物ですが、工務店さんはどうやって選んだんですか?

 

タニさん

家族でよく住宅展示場に遊びに行きました。その中で自分の理想の宿を伝えてすぐに反応してくれる、地元に密着した会社を選んだんです。社員の方は転勤がなくて、ずっとお付き合いができますし、近くに住まれている方も多くて、完成後もよく様子を見にきていただけたのが良かったと思ってます。

 

―2016年11月1日に開宿となりましたが、宿名にはどんな由来がありますか?

 

タニさん

僕自身が旅をして人生が変わったということもありますが、旅や宿を通じて少しでも気分転換ができて楽しめる時間を大切にしてほしいですよね。
一度限りの人生、いつか皆さんにとってかがやいた花を咲かせてほしいという意味を込めて「かがやきの花」にしました。

 

 

食べ物、飲み物、持ち込みOK

外食もまた楽しい町

 

―こちらでは何故食事付きではなく、素泊まりのみなんですか?

 

タニさん

これまでにも「食事は付いてないんですか?」という問い合わせを時々いただくんですよ。とほ宿っていったら食事が付いて食べながら飲みながら皆さんでワイワイというのがメインのスタイルだと思うんですけど、宿の周辺には歩いて行ける飲食店が多数ありますので、お好きなものを選んで食べてもらうのが一番良いのかな。食事を作らない分、できるだけ談話室に出て皆さんとおしゃべりを楽しんだり観光案内をしたいと思っていますので食事は作ってないんですよ。

 

―お客さんはどんな形で食事されていますか?

 

タニさん

近所に地元のスーパーがあって、お刺身やお惣菜も夕方になると安く買えたりするので、談話室で皆さんと一緒に食事を楽しまれる方もいらっしゃいますね。特にこちらは鯛が有名で、お刺身も安くて美味しいので多くの方が喜んでくれるんですよ。安いから、たくさん買い込んで宿に帰ってくる方もいますよ。

 

―鯛のお刺身、いいですねー。外食だとどんな選択肢がありますか?

 

タニさん

近所には個人経営の飲食店が多いんですよ。お好み焼屋もそうだし、中華料理店もそうだし。地元の方に気軽に何度でも来てもらえるようなお店ばかりで、ボリュームがあり安いんですよ。店主も話好きな方が多いですし。

 

そば入りお好み焼。肉、イカ、玉子、もち、もやしをトッピング。おばちゃんが「ノンちゃん」と呼ぶノンアルコールビールも注文。

 

 

知らなかった景色との出逢い

心で感じる「旅っていいな」

 

―地元の魅力というと、どんなところがありますか?

 

タニさん

やはり瀬戸内海はすごくいいなと思いますね。波が穏やかですし、島々の景色も素敵だと思います。尾道の散策や、しまなみ海道を自転車やバイクで走るのも楽しいですよ。福山はすごく歴史が多い町で特に福山城や鞆の浦は有名ですしね。

 

―福山城ってどんなお城ですか?

 

タニさん

日本で一番駅に近いお城ですかね。駅のホームから見えるので電車でお越しいただけると直ぐに分かると思います。
あと初代藩主の水野勝成は徳川家康の従兄弟で幕府に近い人をたくさん配置して西からの勢力を福山城で止める役割があったんですね。

 

山陽本線福山駅6番線ホームから眺める福山城の一部。近い近い。

 

 

―鞆の浦ってどんな町ですか?

 

タニさん

日本遺産にも登録されていますが、江戸時代の建造物がたくさん残っている小さな港町なんですよ。坂本龍馬が来ていますし、宮崎監督が滞在して作り上げたのが「崖の上のポニョ」なんですよ。福山もいいところが沢山ありますので是非散策してもらいたいなと思っています。

 

鞆の浦にて。瀬戸内海に面した落ち着いた町。赤い屋根の家が印象的。

 

 

旅の楽しさは予期せぬ出逢い

人との出逢いが心に残る

 

―どんな宿を目指していますか?

 

タニさん

宿の場所や設備の新しさでもなくて、やはりここの宿に行きたいと思っていただけると嬉しいですね。しっかりと旅や観光を楽しんでもらうのが基本だと思っていますが、宿でも楽しんでもらえるような、そして素敵な出逢いもたくさん生まれてくれると嬉しいですよね。旅人さんから旅人さんへと本当の口コミも広がって、たくさんの旅人さんが帰って来てくれると一番嬉しいですね。

 

 

2023.5.10
文・園田学

旅人の宿 「かがやきの花」

旅人の宿 「かがやきの花」

〒729-0111
広島県福山市今津町3-3-11
TEL 084-939-6125(受付時間 8:00~22:00)

旅人の宿「かがやきの花」ホームページ

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